Albireo-アルビレオ-【二次創作小説】『ノーザン・クロス スクールダイアリー』 プロローグ -「大智」のケース-

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Albireo-アルビレオ-【二次創作小説】『ノーザン・クロス スクールダイアリー』

プロローグ -「大智」のケース-

原作:Albireo project
著:しののめ とも

 今日は、なんて、最悪な日なのだろうか。

 季節は秋を通りすぎ、そして曇り空のせいか頬にあたる空気は突き刺さるように冷たく、一段と寒かった。
 なんで、こんなことになったのか。思い返せば思い返すほど、どうしようもない苛立ちが募る。
「――大智(ダイチ)、ここでいいか?」
 ぽつりと父親に声をかけられて、大智は、はっとして顔を上げた。
 あまり目立たない裏路地の、古ぼけた赤い暖簾がかかった小さなラーメン屋の扉に手をかけた父親が、こちらの様子を窺うように視線を投げかけている。
 返答に困って言いよどんでいると、父親は、大智の返答を待たずにラーメン屋に入って行ってしまった。
「いらっしゃいませー!」
 仕方なしにラーメン屋の暖簾をくぐると、女性店員の威勢の良い声が鼓膜に突き刺さる。
 店内は、むっとする暖かい空気が充満していて、こじんまりとしていた。
 如何にも『昭和』といったような古臭さをいっぺんに詰め込んだような雑多な空間が目の前に広がり、壁に備え付けられている液晶テレビからはNHKの無機質なニュースが垂れ流しになっている。ちょうど昼時のせいか客はちらほらといて、大智たちの存在なんて気にせずにラーメンの麺をすすっていた。
 父親は、まるで手慣れた様子で小さな猫背を揺らしながら奥のテーブルまでいくと、椅子を引いて「よっこらせ」と着席する。
 大智も、父親と対峙するように反対側の椅子に――無言で座るしかなかった。
 数分もたたずに、先ほど声をかけてきた三角巾とエプロン姿の女性店員が二人分のお冷を持って、テーブルまでやってきて、すかさず「ご注文は?」と聞いてくる。
 すると父親は、怯む様子もなく「ああ、いつものラーメンと……」と言葉を切って、それから「お前も好きなもん、頼め」と壁に貼られた古くて薄汚れたメニューを顎で指し示す。
 ――が、到底そんな気分も起きず。
 大智が口を結んで黙り込んでいると、父親は、仕方ないと言わんばかりに「ラーメン二つで」と店員に伝えた。
 大智のことを気にすることもなく、女性店員は熟れた様子で「はい、ラーメン二つですねー」と、おうむ返しに言って、手書きの伝票にボールペンで何やら書き込むと、さっさと踵を返して小さな厨房に行ってしまった。
「……お前、腹減ってないのか?」
 父親の無機質な問いかけに、応じる気分でもなく。
 頑なに沈黙を守る大智の姿に、父親はそれ以上、何かを問いただすという事は一切しなかった。
 ただ無機質に、血の通わないロボットのようにニュースを吐き出すテレビの雑音が、いやになるくらい鬱陶しい。しかし、大智は、それに抗う術を持ってはいなかった。
 それから、ほどなくして「はい、ラーメン2つになりまーす」と、先ほどの女性店員が、二つのラーメンどんぶりをドン、ドンと遠慮なしに置いていき、食事を済ませた客が席を立って出口近くのレジに向かうのに反応して「ありがとうございまーす」と声を上げる。

 女性店員が、せわしない様子で去っていくのを横目に、父親はテーブルの隅にあった箸箱から割り箸を取り出して、無言でラーメンを啜り始めた。
 いつものしらっとした無味乾燥な父親の行動に、大智は――ついにたまらなくなり。
「……怒らないのかよ」
 絞り出した大智の声に、一瞬だけピタリと父親は動かしていた箸を止めた、が。
「……冷めないうちに食べろ」
 父親は、いつものような味気ない態度で、ただそう言うだけで。
 無関心を装ったような言葉ひとつで、大智の心を逆なでするのには充分過ぎて、鬱積した苛立ちが明確な怒りになったと自覚したと同時に、手が動く方が速かった。
「きゃ!」と短い悲鳴が上がる。
 水浸しになった父親が、呆気にとられた表情で、大智を見ている。その眼に、一瞬、失望というよりも悲哀の色が映ったような気がして、大智はひるんだ。
 お冷の水を感情的に、それこそ一方的に父親へぶちまけた大智へ、この後も父親が責め立てることは一切なかった。

 ――期待に応えなければいけない。
 その一心で、この十六年間、綴木 大智(つづるぎ だいち)は生きてきた。
 その思いは幼い頃から無意識的に刷り込まれていたもので、今も、その思い込みがあったということに本人はまったくもって気づいてはいない。
 だが、高校受験で大ポカをして大きな挫折を味わったことで、母親との関係がこじれてしまい、しまいには一年間も部屋に籠城するという、いわゆる引きこもりとして時間を浪費していた、これは、その矢先の出来事だった。
 感情的になってしまい、ついに母親を殴ってしまい、挙句、さらに父親にも暴力を振るってしまった結果――なのかどうなのか。

 これは、父親からの提案だった。
「お前、絵とかアニメとかゲームとか、そういうの、好きだったよな」と、今さらながらに言って、それから全寮制の学校『ノーザン・クロス』の入学をしてみないか、と言うのだ。
 仕事が多忙でなかなか家族を構ってこなかった父親が、リストラされたせいで呆けたのか、なんなのか。
「生産性のないことは意味がない」とよく口癖のように言っていた母親とは、もう、しばらく口をきいていないし、顔も合わせてはいない。
 ただ、父親はぽつりと無味乾燥に「少し、お互い距離を置くためにも、頼む」と頭を下げて入学することを促されたときは、ただ、大智は流されるように従うしかなかった。
 これじゃあ、まるで島流しみたいだな、と内心、皮肉に思いながら、従うしかなかった。

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この小説について

この小説は、創作ユニット「Albireo-アルビレオ-」を原作とした(一応)公式の二次創作小説です。

アルビレオの世界観を元に、しののめともの独自の解釈で少年少女たちの成長物語を綴るというコンセプトでマイペースに執筆を行っています。

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